「中の人」が語る、オーバーロード機能の 魅力と可能性。
text by Takuro Hayashi / photo by Tim Hoffer
カメラマン、歩荷、クライマー、文筆家、登山道補修、樹護士、フォトグラファー、ミュージシャンなどなど。このシリーズではこれまで、さまざまなジャンルで活躍するテラフレーム愛好家の方々にご登場いただいた。今回、満を持して登場していただくのは、まさにミステリーランチの「中の人」だ。
そもそもミステリーランチは "究極を追求する" ためにつくられたブランドだ。バックパック界の天才と謳われたデイナ・グリーソンとレネー・シペルベイカーが2000年に立ち上げて以来、そのキャッチフレーズには "Built For The Mission" が挙げられている。
やるべきことを成し遂げるためにつくられた、を意味するこの言葉は、実用性と機能性に真正面から取り組む責任感を表しており、それはそのまま "自分たちが信頼できるものを本気でつくる" という社風につながっている。
というのもミステリーランチのスタッフはアウトドアが大好きで、あらゆるアクティビティを楽しんでいる。だからこそ野外、中でも自分のスキルや実力が試される厳しい状況下では、自分が属しているミステリーランチというチームのロゴをつけていたいと考えているのだ。
しかし、もしもミステリーランチの製品が自分たちの使用に耐えられない、見た目だけのヤワな製品であったならどうだろう。彼らはアウトドアのど真ん中で、他社の製品を使わざるを得ない。
「そんなことは社内の、誰ひとり望んでいませんよ」
と語るのは、北米エリアのセールスマネージャーを務めるティム・ホファーさんだ。
「ミステリーランチではスタッフ全員が自社製品を徹底して使い込んでいます。もちろん私もそのひとりです。それは関わっている全員が "クォリティは偶然生まれるものではない" ことを知っているからです。
私たちはブランドがどんなコンセプトでどんな製品をつくっていて、そのコンセプトが本当に実現されているのかというチェックは怠りません。ミステリーランチの品質が下がることは自分たちの遊びの可能性が削がれることに繋がります。ですからここに関わる全員が、非常に厳しい目で自社製品を評価しています。ある意味もっとも口うるさく、もっとも神経質で、もっとも過酷な使い方をするユーザーたちだと思いますよ」
そう話すティムさんが、テラフレームをどう使い込んできたのかを聞いてみた。
積載性を劇的に向上させたオーバーロードフィーチャー
「私のおもなアクティビティはハンティングです。日本ではあまりなじみのないスポーツかもしれませんが、ハンティングにはオーバーロードフィーチャーがとても役に立ちます。というのも、行きと帰りでは荷物の重さがまったく違うんです」
詳しく聞いてみよう。
「ハンティングにおける最大の問題はいつも同じ。重い獲物をどうやって持ち帰るか、です。これまではパックの外側に縛り付けることが多かったのですが、それだと重心が身体から離れてしまって非常に背負いにくかったんです。それでも、これがハンティングに伴う私の責務だと思って背負っていました」
「オーバーロードフィーチャーのそもそもの始まりは、創設者のデイナ・グリーソンが重い荷物を運ぶ兵士たちのことを考えて新しいシステムを考案したことにあります」
ティムさんは続ける。
「この効率的なキャリーシステムは当初、ミリタリー向けの大型パックに採用していたフレームによって実現しました。そしてハンターの中に、背負うものの大きさや重量に合わせてフレキシブルに使い分けることができる、このフレームの有用性に注目する人たちが現れ始めたのです」
「しかしこのフレームはミリタリーでの使用を想定したものでした。たとえば重い荷物を運ぶためには、リフターストラップの角度を理想的とされる45度の角度に近づけ、ウェイトトランスファーの能力を最大まで追求することができるよう、フレームは後頭部の高さまで伸びていたほうが有利です。しかしミリタリーでそのサイズにしてしまうと、伏せ撃ちの際にフレームとヘルメットが干渉してしまうというネガティブな報告が上がっていました。そのため、ミリタリーでは短いフレームを採用したのです。
一方、ハンティングでは状況が違います。しっかり荷物を運ぶためにじゅうぶんな長さのフレームを使うことができます。そうなるとフレームを改良しよう、ハンティングに最適化させて軽量化もしようと、ミリタリーとは違った方向に進化していきました。
そうした意味で、オーバーロードフィーチャーはミリタリー発祥ではありますが、そのシステムの中核となるガイドライトMTフレームはアウトドア用として大きく改良され、今やハンティングだけでなくあらゆるフィールドで多くのアウトドアズマンたちの活動を支えることにつながっています」
そして実際に製品ができあがってみると、多くのユーザーが "なぜ今まで、これがなかったんだ? どうしてこんな簡単なことを誰も思いつかなかったんだ?" と感嘆の声をあげることになったという。
「こうした行きと帰りで重さが違うという状況へのソリューションは、ハンティング以外のフィールドでも待ち望まれていました。レスキューや災害救助に関わっていると、現場に資材を届けることが必要になります。ハンティングとは逆で、行きは大きく重く、帰りが軽いということになります。
どんな状況でも、大きな荷重の変化に柔軟に対応できる。それがテラフレームシリーズが採用している、オーバーロードフィーチャーなんです」
今や、なくてはならない運搬具
もちろんティムさんの野外活動でも、このオーバーロードフィーチャーは大活躍だ。
「自分自身の体験で言えば、これまでにオーバーロードフィーチャーを使ったパックアウトでいちばん重かったのは2年前の11月です。車から約4キロほど離れたポイントでオジロジカを仕留めたんですが、私のライフルやスポッティングスコープといったハンティングギアまで加えると、パックアウトの総重量は100ポンド(約45kg)を超えました。獲物だけを先に背負って車に行き、あとからギアを取りに戻ってくることも考えましたが、すでに夕暮れが近かったことや、途中はかなりの急登で、そこをもう一度登り返すのは避けたいと思ったんです。そこで思い切って、すべてを背負ってパックアウトしました。
ハンティングフィールドは決して歩きやすい地形ばかりではありませんし、ここまでの重量を背負ってのパックアウトは、オーバーロードフィーチャーなしでは無理だったと思います」
ティムさんの話は続く。
「その他に役立ったのは、イエローストーン国立公園のソローファーで楽しんだパックラフトトリップですね。完全に人里から隔絶されたエリアを1週間ほどかけて旅したんです。このときは仲間との旅に必要なすべてのものを担ぎました。パックラフトやキャンプ用品、食料だけでなく、快適な夜を過ごすための薪、そして絶対に欠かせないビールなどもしっかり縛り付けて行きましたよ。なにしろ楽しみに行くわけですからね。必要なものはすべて詰め込みました」
と笑うのだ。
さらにさらに。
「普段のキャンプに行く際も、グループの調理場として使う大型のタープや、予備の食べ物と飲み物を入れたソフトクーラー、クライミングに備えたロープやカム、それから5ガロン(約19ℓ)の水タンクなども持ち出せるようになりました。必要かなと思ったら躊躇なく持っていける機能は、気持ちのストレスを減らしてくれますよ」
なんだか話のスケールが大きすぎてうまくイメージすることがでいない。が、とにかくデカイ荷物を背負っていることだけは確かなようだ。
多くの製品の長所を集約したパック「テラフレーム」
こうして本気でテラフレームを使い込んでいるティムさんに聞いてみた。その魅力をひとことで表すとしたら、どんな言葉になるのだろうか?
「簡単ですが難しい問題ですね。簡単っていうのは、テラフレームはオーバーロードフィーチャーを備えるなど製品の方向性がはっきりしていますから、いくつかのキーワードを挙げることができるんです。たとえば、ひとつは積載性。大きな荷重を均等に支えるために、頑丈なフレーム、そして快適なウエストベルトやショルダーハーネスを備えています。
それから、汎用性もテラフレームを表すキーワードかもしれません。ハンティングの例を挙げたように行き帰りで荷物のサイズが違う場合や、かさばるものを運ぶといったフレキシビリティに富んでいます。だから行き先の違う旅行や冒険にも自由に対応できます。
もちろん丈夫さ。タフとかワイルドとか、そういうキーワードも当てはまるでしょうね」
だけど、とティムさんは言葉を選びながら、
「最終的には万能性、ですかね」
と答えた。
「うん、たぶん万能性です。何よりもこの製品は、つくられた目的を遂行する能力を持っています。バックパッキングやキャンプなど、あらゆるアウトドアアクティビティで快適にギアを運ぶことができることは間違いありません。
それに加えて、このパックには手品師の袖の秘密のポケットのようなギミックが与えられているんです。必要となれば、普段隠している能力を引き出して、あっと驚かせることが可能になります。
ひとつのサイズのバックパックではカバーできない、天候や行き先や同行する人数によって変わるさまざまな要素を柔軟に吸収してしまう。あらゆる用途に使えるという意味で、テラフレームは万能だといっていいでしょうね。
実際のところ、私はこのあとキャンプ道具とフライフィッシィングのタックル、それから小型のインフレータブルカヤックを持って、メキシコのバハ・カリフォルニアでルースターフィッシュやドラドをターゲットにした釣り旅行をしたいと思ってるんです。そういうときには、テラフレームが心強い味方になるのは間違いありません」
「友人のアウトドアフォトグラファーはハードケースに入れたカメラ機材をテラフレームに積み込んでいるし、ティートンやワイオミングのウインドリバー山脈に行く友だちは、キャンプ用具とクライミングギアをパックがパンパンになるまで詰め込んでいます。
そうしたウィルダネスを楽しむすべての人たちが、このバックパックを自分なりのスタイルで使いこなしているんです。
きっと日本のアウトドアズマンたちも、負けじとデカイ荷物を背負っていろいろなところに遊びにいってるんだと思います。そういう人たちのアウトドアライフをサポートできることが、私たちのいちばんの喜びなんですよ」
自分たちがほしいと思うもの。自分たちが楽しんでいるフィールドで役に立つもの。ミステリーランチではそうした製品をつくり上げている。テラフレームはその中でもひときわコンセプトが際立った、最高に守備範囲の広いバックパックなのだ。
Tim Hoffer/ティム・ホファー
ミステリーランチの北米エリア・ハンティング・セールス・マネージャー。前職がフライフィッシングメーカーのカスタマーサービスだったこともあり、趣味はハンティングのほかに釣りはもちろん、登山やキャンプなど。11歳の息子さんとともにありとあらゆる野外活動を楽しんでいる。