今日も今日とて“低山”の大冒険へ
text by Sei Ouchi / photo by Tomoyuki Okano
新しい発見と可能性に満ちたフィールド“低山”に魅せられて
自宅近くの大きな農地の一角で、牙をむき出しにするオオカミが描かれたお札を見つけた。縦長の白い紙のなかで黒いオオカミが鋭い眼光を放っている。ひと目で魔除けの護符だろうと察しはしたものの、なぜだろうか、逆にすーっと引き寄せられていくような不思議な魅力を持っていた。
まさか大都会の東京にオオカミを神とする信仰があるなんて、東北から上京したぼくにとっては意外過ぎる発見である。さらには、秩父や多摩をはじめ関東・東海の里山を巡り歩いて見つけた、数々のオオカミの痕跡――暮らしと密接な山の信仰や山犬と人間の物語――は、ぼくの山旅観に大いなる刺激と転機をもたらした。
低い山に歴史や文化を辿るおもしろさたるや。そういうことが高じて、いまでは旅をするように山里をフィールドワークする「低山トラベラー」を名乗り、日本中の低い山を歩いては物書きをしている。山に導かれて会社員から転身したことを思うと、人生は想定外の連続だ。
山歩きをはじめたばかりの頃は、登山雑誌と地図が山行計画の貴重な羅針盤。雑誌で取り上げられる名峰や正確な情報の多い深田百名山からスタートし、あっという間に山の世界に魅了されてしまった。まあ、このあたりは多くの初心者にとっても共通の“トレイルヘッド”だろう。
遠くの高い山の知らない道を歩く。旅好きからしてみれば、もうそれだけで気分は高揚するものだ。都市に暮らす日常からかけ離れた山の世界は、非日常の別世界。資源の限られた古い山小屋に泊まって山の旅人とちびちび酒を酌み交わすことも、大型のバックパックに衣食住を詰め込んで大自然をひとり歩き抜くことも、静かな森に身を置くことも、ゴツい岩稜をよじ登ることも、絶景の稜線を飛ぶように歩くことも、五感のすべてが自然からいい影響を受け、身心が生きる喜びに満ちていく。
ところが、日帰りで足を運んだ東京近郊の里山や峠道を歩いたときに、大好きな時代小説や神話民話に登場する歴史舞台、そして絵画などの美術作品に登場するモチーフが、そこかしこに点在していることに気がついた。そのときのぼくの五感は、高い山のそれとはまったく異なる新鮮な感覚をつかみとり、言い知れぬ好奇心に満ちていった。
低山を歩きつなぐ“セクションハイカー”のように
知っているようで知らない低山の歴史や里山の文化は、身近に隠された冒険の入口である。神話と神社仏閣の関係も、山伏と民芸の関係も、縄文時代も戦国時代も、歩いて見聞を広めるほどに点と点とが線になり、興味と知識がどんどんつながっていく感覚がおもしろい。低山を歩くたびに、脳内には遺跡や山城や磐座や、あるいは絶景ポイントや秘密のスポットがマッピングされ、自分オリジナルの日本地図ができあがっていく。
そんな刺激的な低山が日本全国にどれだけあるのか皆目見当もつかないところだが、白山書房刊行の『日本山名総覧』によれば、1/25,000地形図に載っている山は16,000強だという。名前の載らない小さな山もあるだろうから実際はそれ以上だとして、この数字を物差しに低山と高山の割合を想像するだけでも、その数は推して知るべしだろう。
そうした無数の低山をすべて線で結ぶと、日本最長のロングトレイルができあがることになる。日本中の低山を歩くということは、そのトレイルをセクションハイクしていることに他ならない。なーんて、いささか無理のある論理かもしれないけれど、そういう途方もない空想とともに、今日も今日とて低山を歩きつなぐ旅が楽しくて仕方がないのだ。
低山のオフシーズンは、夏山縦走と雪山歩きに出掛ける
ところで、楽な印象がつきまとう低山だが、日本各地に訪ね歩くとなるとこれがなかなかタフな活動だったりする。低い山とはいえ、山は山なのだ。起伏の激しい隆起の山、鎖場の連続する修験の山、道中に集落などの逃げ場がない山、谷から這い上がる屹立した山、動物たちの楽園、道の消えた山、逆に道の錯綜する山など、山へのリスペクトを欠いては成し遂げられないプロジェクトである。
よく言われる「道迷い」は、さまざまな用途の道が交差する低山ならではのリスクであり、難に遭う可能性は登山道の開発と整備が行き届いた人気高山の比ではない。そんな山々で年間120を超える山行を何年も続けている。三日に一回はどこかしらの山を歩いている計算だ。
まるでシーズンを戦い抜くプロスポーツ選手が、オフに入るとトレーニングを積んで次なるシーズンに備えるように、ぼくも低山のオフシーズンになると高い山でトレーニングに勤しむ。真夏はアルプスや東北の深山、真冬は八ヶ岳や浅間連峰、といったように。ここでしっかりと歩いて足腰をつくっておくと、一年を通して低山を歩き通す基礎ができ、すこぶる調子がいい。
この話を聞いた山仲間たちは、「ふつう、逆ですよね?」と笑ってからかう。まあたしかに、低山からはじめてステップアップするのとは真逆ではある。
歩くことは“自分を信じること”
運ぶことは“道具を信じること”
自宅から通いやすい奥秩父の広大な山域には、四季を通して歩くお気に入りの“トレーニングコース”がたくさんある。常緑針葉樹林と足元の苔が奥秩父らしさを醸す亜高山帯の森。多くの川の水源地らしく深く美しく刻まれた谷。東京に寄りそう大自然のなかを、ちょっと重めの荷物を背負って歩くのだ。もちろんリスクもある。すべては調査、想像力、準備、そして経験と体力。歩き始めたら自分を信じ、歩くことを楽しむ。
そうした山行に、テラフレーム50は欠かせないバックパックである。カーボンフレームを採用したつくりはタフそのもので、衣類も食材も調理器具も、そしてテントと寝具もまるっと収納する抜群の運搬力を誇る。ミステリーランチの代名詞的機能のひとつ「3ジップデザイン」によるセンターアクセスは、詰め込んだ道具をすばやく探して取り出すのに便利この上ない。一度使ったらやみつきになってしまった。
感心したのは、そのフォルム。容量の割には意外なほどスマートにまとまる形状なので、機動力が極めて高い。飛び出した枝葉や岩肌のなかを歩くことの多いぼくにとって、障害物に引っ掛かりにくいフォルムは安心のポイントだ。破れにくい丈夫な生地も含めて、これがテラフレーム50を信頼して使える見逃せないポイントだったりする。
加えて特徴的なのは、バックパックとその背面の間に荷物を挟みこむことができるオーバーロード機能だろう。旅先で買ったお土産やいただき物で荷物が増えたときに大活躍するし、ずぶ濡れのテントを防水バッグに入れつつ背面に挟んだときなど、思わず「あってよかった!」と叫んだくらい。総じて、想定外のときにこそ本領を発揮する頼れるバックパックだといえるだろう。運ぶことに関して、これ以上に信頼できる道具は、なかなかない。
先月は取材で関西方面に出張してきた。山を歩く装備と携帯用のアタックザックに加えて、パソコンやデジタルガジェットも丸ごとテラフレーム50にパッキング。そのいで立ちをひと目見たクライアントが真っ先に反応したのが「いい色ですね!」ということだった。そうなのだ、このLODENと呼ばれるグリーンは最高にかっこいい。ハンティングやミリタリーといった領域で実績を積み重ねてきたミステリーランチならではの色使い。これも大いに、ぼくの気に入っている。
使用モデル
テラフレーム 3-ジップ 50
- 価格:55,000円(税込)
- サイズ:S、M、L
- 容量:50ℓ
- 重量:2.3kg
- 素材:330D Lite Plus CORDURA®
- カラー:Loden、Black
Sei Ouchi
山里の歴史物語を辿って各地の低山ワールドを探究する低山トラベラー。幼少期の渓流釣りが山遊びの原点。NHK BSプレミアム『にっぽん百名山』では雲取山と王岳・鬼ヶ岳を案内した。1972年生まれ、宮城県出身。
note(活動実績):https://note.com/seibouz
twitter:https://twitter.com/seibouz
instagram:https://www.instagram.com/sei_ouchi/