Yosomonoの視点で描く、動物たちの世界
text by Koki Aso / photo by Mutsumi Tabuchi
愛読書は『宮本武蔵』。
フランス生まれのサムライ!?
「え~と、そうですね。日本に来たのは13年前、わたしはもともと日本の神社や神道に興味があり、エイジヨシカワのLa Pierre et le Sabre(石と剣)……こちらでいう『宮本武蔵』を中学生の頃から愛読しておりまして」
迷彩柄のパックを背負い、流暢に話すのは、フランス人の写真家、ミッシェル・ゴディムスさん。小合溜に沿って広がる都内最大の水郷公園・水元公園には、カワセミやツツドリ、ムクドリやフクロウの撮影でよく訪れるのだとか。
「先週までは北海道で撮影していたので、こちらは暖かいですね。え~と、生まれは昭和59年で……あっ、あそこを見てください。オオタカですっ!」
聞けば、ときおりここで出会うオオタカを観察するお父さんの姿があったので、彼らがいるのではと注意していたという。指さす先を眺めると、ひときわ背の高いメタセコイアの遥か上空に、いわれたらそうと気づく小さな猛禽の影……ミッシェルさんは、満足そうに空を眺めている。
ミッシェルさんが生まれ育ったのは、フランス北部のピカルディ。「地平線の向こうまで畑が続く」という故郷は、豊かな自然があるとは言いがたかった。しかし近隣の森でキャンプを楽しみ、野生動物に憧れる少年時代を過ごしたという。
「日本文化が好きだったので、語学を学ぶためにこちらに来たのですが、これほど自然が残された国だとは知りませんでした」
来日してからカメラを手にすると、とたんに撮影に夢中になる。自然や動物を追うようになったのは、東京から電車で一時間ほどの距離に、豊かな自然があると気づいたことからだった。
「茨城、栃木、軽井沢、山形……動物に会いにずいぶんあちこち行ったんですけど、やっぱり北海道がメインですね」
話をうかがい、写真を拝見していると、アフリカやカナダ、イギリスなどへも撮影旅をしているようだが、北海道には特別な思いがあるらしい。ここ3年は、夏休みの2ヶ月をすべて北海道での撮影に費やし、それ以外の休みもやりくりして年に3度、合わせて3ヶ月ほど当地で撮影を行なっている。
「時間をかけて広い北海道内をあちこちまわったので、どこに誰の巣があるかだいたい把握できています」
ふいに動物に出会った場合は、最初の瞬間が重要だという。驚かさないよう細心の注意を払いながら、カメラを構える。動物は逃げ出す直前、2~3秒フリーズしたように立ち止まり、はっきりとこちらを確認してから、駆け出すという。驚かさないよう、子どもに語りかけるよう、目線を合わせて低く構え、振りかえる瞬間を待つ……。
「そのタイミングを逃したら、全部お尻の写真になっちゃいます」
あらかじめ分かっている巣を撮影する場合、やはり姿勢を低くし、動物たちの尻尾や耳をよく観察する。
「彼らの感情は耳と尻尾に表れるので、怖がっていたらその場に留まり、落ち着いたら1m近づいて15分待つ。様子を見ながら落ち着いているようだったら、また1m……」
この間、余計なことはなにひとつ考えられないという。構図を考え、動物たちの動きを予想し、彼らに心を寄せてゆく。
「頭が真っ白になるくらい、幸せな瞬間です」
Yosomonoとして
ミッシェルさんはそうしてとらえた動物たちの姿をWEBで、今年の一月には写真展「北の風」で発表しているのだが、そのとき自らを称して「Yosomono Photography」と名乗っている。
「10年以上母国を離れると、価値観も変化し、フランスに帰国しても自分の故郷じゃないように感じます。かといって、日本もわたしの国じゃない。どこに行ってもYosomono……という感覚があるんですね」
とはいえ、写真家としては、それは悲しむべき感覚ではないという。
「Yosomonoとして、違う視点から写真を撮っていきたいと思っています」
そして、別の視点から日本文化を撮るだけでなく、動物の世界にもYosomonoとしてこっそりと忍び寄る。邪魔せず、脅かさず、追いかけず、ときに数時間をかけて害意がないことを伝え、そろりそろりと近づいてゆく。動物のほうでもそれは承知で、「誰かいる……危なくないか!?」とこちらをうかがいながら、距離を図っている。コンタクトが上手くいくと、彼らはこちらを意識しながらもしだいに警戒心を解き、生活の続きを見せてくれる――ときに狩りを再開し、交尾をはじめるキツネたちも。それどころか、接触を図り、とことこと手の届きそうな距離まで近寄ってくることさえある。
「わたしはあくまでYosomonoですが、受け入れられたと感じる瞬間があるんです。そういう瞬間が過ごせるなら、よい写真が撮れなくてもいいかな、って思うくらいです」
ミッシェルさんの旅はまだまだ続く。
「次は、クマの世界にお邪魔したいと思っています」
動物に近づく旅とバックパック
カメラを背負い、動物たちの世界へと踏み出すミッシェルさん。これまでいくつものカメラバッグを使ってきたが、その多くは機材を収める機能は果たしても、背負い心地が悪かったり、耐久性に乏しかったり……。ところが、3年前に“ピントラー”に出会い、以来、ミステリーランチが撮影旅の相棒となった。
「ミステリーランチはなんと言ってもタフ。カナダやボツワナではずいぶん手荒になってしまう場面もあったけど、故障ひとつせず、カメラを守ってくれました」
そして、現在は“ソートゥース 45”を愛用している。
「このモデルがすばらしいのは、なんと言ってもメインコンパートメントがファスナーで大きく、すばやく開くこと。必要なときにすぐ機材を取り出せるので、シャッターチャンスを逃しません」
そして、カメラのパーティションケースがすっぽり入る、45ℓというサイズ感が、撮影旅では重要だという。
「カメラ機材とノートパソコンを収め、飛行機内に持ちこめるという点も、撮影旅ではとても重要です!」
フィールドでは、撮影機材以外の野外道具、テントやシュラフは、バランスを考えて、雨蓋のうえに積んでいくことが多い。
「去年の夏は知床岬を目指して1週間の撮影旅を行ないました。装備は40kgを超えたのですが、そのときに役立ったのがオーバーロード機能です」
出番が少ないが、いざというときに役に立つのが、ミステリーランチが誇る独自のこの機能。知床の旅では食料を挟み、また、撮影ガイドを頼まれるときも、ゲストの装備をオーバーロード機能を使って運ぶことが多いという。
「快適で強く、機材との相性もいい。別のパックを選ぶつもりはまったくないですね」
使用モデル
ソートゥース 45
- 価格:68,200円(税込)
- サイズ:S、M、L
- 容量:45ℓ
- 重量:2.4kg
- 素材:330D Lite Plus CORDURA®
- カラー:Subalpine、Coyote、Foliage
Michel Godimus
1984年、フランス北部ピカルディ生まれ。2007年、語学習得のために来日、後にカメラを手にし、子どもの頃から憧れていた野生動物の撮影に取り組む。今年、長男の冬樹くんが誕生、愛息と動物たちの板挟みに!?
https://www.yosomono-photography.com
https://www.facebook.com/Michel.Godimus/